私は天使なんかじゃない
清浄なる水を求めて
人は水なくしては生きられない。
「徹夜で飲みたかったのだがな」
「すまんなネイサン。今夜は昔の弟子が訪ねてくるのだ。昼間、たまたま会ってな、今夜家で飲もうと誘ったんだ」
爺さんズは勘定を済ます。
贖罪神父と、ネイサンだ。
「毎度ありがとうございました」
ゴブが最後の客に挨拶をした。爺さんズは店を出ていく。
ここはメガトンの酒場。
ボルト101への訪問から1日が過ぎた。
最後の客が帰った、それはつまり酒場の中には俺たち関係しかいないってわけだ。と言ってもトロイは部屋に閉じこもってるけどな。ロボを修理してる。
毎度カウンターで死んでたおっさんは今日はいない。ボルト101から戻ってからケリィのおっさんは姿を消した。
調べたいことがあるんだと。
酒場は別に24時間ってわけじゃない。客がいる限りは開いているが、客足が途絶えた時点で閉店。特に時間決めてないようだ。
まあ、戦前のジャパニーズの企業戦士じゃないんだ、24時間は戦えないぜ。
捕縛されてたボルト至上主義者3人は釈放された。市長が帰ってきて、そう命令した。
3人がどこ行ったかは知らん。
だけどアマタは入れないだろうし、最低限の物資を渡されて放逐されただけだから、死ぬ可能性が高い。
まあ、メガトンはそこまで好意的にする必要はないんだろうけどな。
何しろあいつら優等生の家を攻撃した。それを止めようとした住民や警備兵や保安官助手と撃ち合いになった。幸いメガトン側には死者はなかったけど負傷者は出た。
最低限でも物資渡したんだから慈悲深いだろ。
「ブッチ、店閉めよう」
「あいよ」
シルバーはテーブルを拭いたり片づけを開始、ノヴァ姉さんは奥で洗い物をしている、ゴブは明日の料理の仕込みを開始した。
働き者だぜ、皆。
俺は扉を施錠しようと行くと……。
ガチャ。バタン。
客が入ってきた。
グールだ。
グールの客だ。
スーツ姿で腰に44マグナム。右手にはスーツケースを持っている。コンバットアーマーとサブマシンガンを身に纏った白人の女がいる。
「悪いけど今日は終わりなんだが……」
「よう。ブッチ」
「誰だっけ?」
「薄情だな。忘れたのか? ああ。見分けが付けないのか? 俺だ、Mr.クロウリーだ」
「おー」
アンダーワールドにいたバーテンか。
ゴブが反応する。
「おお。これはこれは久振りだ、常連さんのご登場だ」
「今じゃ俺もナインスサークルの経営者だ。あんたのとこの家族の宿の常連から足を洗ったのさ。さて旧交を温めに来たわけじゃないんだ、ケリィはどこにいる?」
「おっさんか? さあ? 昨日まではいたぜ」
俺が答える。
Mr.クロウリーは何事かを考えていたが、付き従ってた女に言う。
「引き上げてくれていい、シドニー」
「よろしいんで?」
「あいつ逃げ足速いからな、俺に勘付いたのかもしれん。お前さんもあいつのことは知ってるだろ?」
「確かにそういう奴ですね」
「ここで契約を解除しよう。お前さんは有能だが、高い。日が経つほど費用が嵩むからな。あいつとの追いかけっこは持久戦で行く。キャップは温存せねばな。いくらだ?」
「今日までで1500キャップですね」
「やはり高いな」
「有能だから高いんですよ」
Mr.クロウリーは女に金を払う。何だか知らんが傭兵のようだ。
毎度ありと言って女は宿を出た。
顔は好みじゃなかったけど良い尻だぜ。ぷりぷりしてる。
「何見てんの、スケベさん」
「ち、ちげぇよ、シルバー」
あんたが稼いだ分でお相手するけど?とシルバーは耳元で囁く。
俺が怒鳴ろうとすると彼女は笑って洗い物を持って奥に消えた。
悪女かよ、まったく。
まあ、シルバーは良い女だけどさ。
「ゴブ、厄介になるぞ」
「Mr.クロウリー、悪いけど今日は酒場は……」
「閉めるのは構わんよ、飲みたいんではなく泊まりたいんだ。夕飯は歩きながら済ませた。酒瓶と一部屋をくれ」
「そういうことなら。ブッチ、案内してくれよ」
「あいよ」
酒場の2階。
トロイとブッチの部屋。トロイは1日中部屋に閉じこもっている。
カチャカチャ。
工具で弄り、ハンダゴテで基盤をくっ付け、トロイは球体を修理している。
修理の知識はある。
腕もある。
西海岸ではこれぐらいはこなしてきた。
修復しているのはエンクレイブアイポッド。ただキャピタルでプロパガンダを撒き散らしているタイプとは若干違う。初めて見るタイプだった。
ED-Eという車のナンバーらしきものが補修用に張り付けられていたので便宜上はED-Eと呼んでいる。
「よし」
満足そうにトロイは呟いた。
治った。
少なくとも自分の知識上は。
トロイはこれをブッチの手下に、つまりトンネルスネークの一員とするつもりでクレーターサイド雑貨店から購入した。
スイッチを入れてみる。
「あれ?」
カチ。
カチ。
カチ。
動かない。
「おかしいなぁ」
理論上は治ったはずなのになと呟く。とはいっても完全に内部を諳んじているわけではない。解析不能なブラックボックスがあった。
それに妙にハイテクばかりが組み込まれていた。
トロイは思う。
これはきっとコスト度外視で作られた、高級品だと。
きっとブッチは喜ぶに違いない。
ぶぉん。
ED-Eは音を立てて起動し、ふわりと宙に浮いた。
思わずガッツポーズをするトロイ。
「飛べラルフィっ! 無限の彼方までっ!」
「こらED-E。またアニメ見てたのか。いけない子だな」
「この件をオータム大佐に報告させていただく」
「グラント博士め、本気で報告するつもりかっ! ……どうして誰も分かってくれないんだろうね、ED-E」
「君が研究している試作品のアイポッドを全てファイアートルーパー用の材料にしたまえ。これは大佐命令だ」
「逃げろED-E。ナヴァロに逃げるんだっ!」
「<銃声>」
「見てパパ、これ、ラルフィみたいだっ!」
「ひゃあっ!」
宙に浮かんだED-Eは音声を発する。
無数の音声を。
録音されていたであろう、過去の音を。
「<Beep音>」
「……?」
まるで頬擦りするようにトロイに体を擦り付ける。実際には、ぎりぎり接してはいないが。
トロイは戸惑う。
こんなに人懐っこいロボットは、西海岸でも見たことがない。
「<Beep音>」
「えっと」
甘えているようだ。
「お前は今日から兄貴の……えっと……僕をご主人様だと思ってる?」
「<Beep音>」
「困った」
予定と違う。
これじゃあ兄貴に喜んで貰えない。
「あのね、僕がご主人様じゃなくて」
「<Beep音>」
「もうー」
スペック的には調べる限り、ハイスペックのロボ。
二重アーマー構造で防御力は高く、搭載されているレーザー兵器は一瞬で人を炭化させる。
「まあ、いいか」
トロイは考える。
要は僕が兄貴の側にいればいいんだと。そうすればED-Eも兄貴の役に立つわけだし、と。
その時、大気が震えた。
地震?
違う。
それは爆発音。
当然屋内にいるトロイには気付かないものの、その爆発は浄水場が爆発した音だった。
メガトンの生命線。
スプリングベール。
戦前の街。
現在は廃墟と化している。
近くにはスプリングベール小学校があり、そこはレイダーの巣窟だった。何度もメガトンから討伐隊が送られてくるものの、立地的に適しているのか、何度討伐してもレイダーの
集団が移り住んでくる。その為この辺りは引き寄せられてくるレイダーを恐れて誰も近寄らない。
……。
……少し前までは。
赤毛の冒険者の登場、エンクレイブの襲来等でこの近辺のレイダーは駆逐された。
特にエンクレイブがレイダー連合の本拠地エバー・グリーンミルズを空爆、本拠地と指導者、幹部を粉砕。
ほんのちっぽけな統率も失ったレイダーたちは食い合う形となった。
現在はメガトンの方が強くなり、力の均衡が崩れた、結果としてスプリングベール近辺には近寄れないのが現状だ。その隙を突く形で聖なる光修道院がスプリングベールに拠点を置いている。
物陰に隠れ、修道院を監視している者がいる。
眼帯をした男性。
カウボーイハットとコート。
腰には44マグナム。
ソノラが派遣したレギュレーターの1人だ。
聖なる光修道院を監視している……わけではなく、彼はリベットシティから派遣された水キャラバンを追ってここまで来た。
「こういうことか」
レギュレーターは呟く。
修道院前で、ローブとフードの修道士たちにリベットシティの水キャラバン隊はアクアピューラを納品している。
全てだ。
バラモンの荷台乗っていたアクアピューラのペットボトルを満載した木箱を次々と積み上げていく。
卸先はメガトン。
それは、出発前に確認した。しかし現在引き渡しているのはメガトンではなく、宗教団体にだ。
FEV混入との関連性は分からないものの、メガトンに届かないのはこういうことなのだろう。
「報告しなければ」
「そいつはいいな」
「……っ!」
動こうとして、止まった。
後頭部に何か突きつけられている。
「サイレンサー付きだ。ここで撃ってもあいつらにはばれねぇよ。お前さんは死ぬ、あいつらは気付かない、今後もこの取引は続くってわけだ」
「お前誰だ?」
「おうおう余裕あるな、さすがはレギュレーターってか? 俺の名はジェリコだ」
「ジェリコ? ……ああ。あの傭兵の」
「知ってるのか、光栄だな」
「傭兵ってのは雇い主に影響される。だから、ある程度は見逃す。お前は我々のブラックリストに載る直前だ」
「そうかい。じゃあ、これで載るな」
「あれは、どういうことなんだ?」
「横流しってやつじゃないぜ。少なくともリベットの輸送隊は知らねぇよ。パノンってリベット評議員が修道院から金貰って引き渡してるのさ。輸送隊はそこからメガトンに引き渡されると
思ってる。まあ、間抜けな話なんだがな。俺としてはリベットなんかどうでもいい。この横流しを見た奴の口封じを任されてるわけでもねぇ」
「どうしたいんだ?」
「つまらないのさ、この世界が」
プス。
軽い音が響く。
レギュレーターはそのまま前に崩れた。頭は撃ち抜かれている。
ジェリコはホルスターに銃を収め、顎を撫でる。
「で? どうしたいんだい?」
ジェリコの後ろに立っていた男女の、女の方が口を開いた。マントで体を包んだ、銀髪の女。
「お前はどうしたいんだ、クローバー?」
「赤毛だよ」
「ミスティ打倒でお前とは手を組んだが、肝心のあいつがキャピタルにいないんじゃしょうがねぇ。ルックアウトまで追うのも面倒だ。なぁ、シド」
「うーがー」
レイダー風の服装をした、腰に片手斧を差した男はそう唸った。
知性の色は瞳にはない。
「展開を楽しめ、クローバー。ぶっ壊してやろうぜ、このくだらない世界をよ」
「そいつはいいんだけどね、リベットのいいなりってのもね」
「黒幕が誰もいないっていうのも楽しいじゃねぇか。利害だけで繋がって、利害だけで皆動いてる、これぞ悪党の協奏曲ってやつだ」
「くだらないね」
「まあ、待て。良い案があるんだよ」
「聞こうじゃないか」
「ストレンジャーを利用するってのはどうだ? あいつが帰ってくるまでの、前哨戦さ。壊そうぜ、こんなくだらない世界を」
「悪くないね。あいつの悲しむ顔が楽しみだ」
「うーがー」
Mr.クロウリーを部屋に案内して数分後、爆発音がした。
俺は着の身着のまま、まあ、用心棒してたから完全武装だったわけだから問題ないんだけどよ、ともかく外に出た。
爆発だった。
メガトンの生命線である浄水場が爆破されていた。
えらいことになった。
メガトンの街の浄化システムがイカレた。
誰かが爆破したんだ。
直す?
ああ。直す方向だ。
「モイラ、何とかなりそうか?」
「ええ市長。時間は掛かるけど、メインシステムはわりとマシな状態。でも二週間は稼働できないわ」
「二週間」
「既に浄化されてるのがタンクにあるから数日は持つかな。でもどうするの? さすがに私もそこまではどうにもできないわ」
「それはこちらで何とかする。他に異常がないか調べてくれ」
「はいはい」
直せるには直せるらしいけど……その間は水の供給が出来ない。正確には、現在浄化済みの水がタンクがあるらしく、そいつを供給すれば数日は持つらしい。
問題は浄化システムを直すのには二週間は掛かるってことだ。
干上がっちまう。
メガトンの浄水場の中で、俺と市長、ビリー・クリールが話し合う。
今後のことを。
俺がここにいる必要はないんだろうが一番に駆けつけたので、俺も話し合いに参加することに。
まあ、なんだかんだで実働出来る人材だしな。
アッシュは街の警戒の為に外にいるし、保安官助手たちはマンホールを完全に封鎖している。まあ、完全に固定しておいた方がいいよな。一応万が一の脱出用の抜け道として空き
やすいようにしていたらしい。エンクレイブ着た時は役立ったし。だけどマンホールを使って敵が来る現状を考えたら封鎖するに越したことはない。
誰が爆破したのかは謎。
とはいえ外部からの可能性もあるし、この爆破を機に何かしかけてくる可能性も捨てきれないので現在封鎖中。
これで出れないし入り込めない。
正規の扉以外ではな。
正規の扉だけが通行可能な入口になるのであれば、色々と対処は簡単だろうぜ。
トロイは宿だ。
びびってたし。
浄水システムを点検しているモイラは黙々と点検してる。頼りになる女だぜ。
「あの、市長、実は相談が」
気弱そうな男性が施設に入ってきて市長に声を掛けた。
「悪いな、後にしてくれ」
「は、はあ」
追い返す。
いいのかよ。
「あれ誰だ?」
「レオ・スタールだ。ランプランタンを営業してる兄弟の1人だよ」
「ああ。ゴブの店の下の露店か」
「いや。見た感じ分かり辛いかも知れんが露店じゃないぞ、屋内もある」
「へー」
まあ、どうでもいいんだが。
俺は基本酒場から動かんし。
さて。
「市長、どうすんだよ」
「……」
「リベットかジェファーソン記念館あたりからピストン輸送すんのか?」
元々アクアピューラは補助的な位置付けに過ぎない。
まあ、ここにはそもそも届いてないけど。
リベットシティが主導して運んでいるアクアピューラはそれぞれの街の住人全ての必要量の水ではない。全然、足りない。足りない分は当初からある、それぞれの街の浄水システムに
頼らざるを得ない。リベットが意図的に、政治的な意味合いで供給量を調整している節はあるものの、元々輸送には限界がある。
戦前ではないんだ、仕方ない。
蛇口捻れば真水が出るわけではないのだ。ジェファーソン記念館と各街は水道管で繋がっているわけではない。輸送方法だって、バラモンで運ぶしかない。
どうしても必要な供給量を常に維持できるわけではない。
だから。
だから、アクアピューラは補助的な意味合いが強い。それで足りない分は従来の方法で飲み水を確保するしかない。とは言っても従来の街々の浄水システムも完全に綺麗な水にするには
時間が掛かるし、結果として必要量を濾過するにはある程度の不純物が残っている、汚れた水なわけだが。
そういう意味では、優等生の親父さんがしたことは、偉大だし、画期的だ。
将来的には世界を救うだろう。
将来的にはな。
今?
今は、ジェファーソン記念館とリベットの周りが騒がしくなった程度だ。
順調に行くにはまだ時間は掛かる。
「市長」
「……」
ルーカス・シムズは黙ったままだ。
それから静かに首を振った。
横に。
「何でだよ?」
「どこで混入しているかは分からないが、危険だ」
FEVのことだろう。
「だけどBOSはちゃんと検査してるんだろ? Dr爺ちゃんは信用……」
「ここだけの話だが」
そう言って市長は周囲を見た。
聞かれてはまずいように。
声を潜める。
「ここだけの話だが、BOS内部で裏切り騒ぎがある。依然解決していない。COSとかいうのがいるらしい。そいつらが混入事件を画策した節があるんだとさ」
「信用できないってわけか」
「そこまでは言わんが、今は、信じれない。正確に言うなら住人の為にも危険なことはしたくない」
「確かにな」
市長としての立場を考えると、危ない橋は渡れないってわけだ。
納得だ。
ビリー・クリールが口を挟む。
「それは分かるが、現実としてどうするんだ? アクアピューラのピストン輸送は、確かに難しい。というか無理だよな、あれは補助的なものだ」
「そうだ」
あくまで街の浄水システムがメインで、そのメインが死んでいる今、難しい。
ピストン輸送しても街は枯れてしまう。
市長は言う。
「節水宣言をせねばならん。我々はそれまでに新しい水の確保先を探す。そして宛はある」
「どこだ?」
「モントゴメリー郊外の貯水池だ」
「モントゴメリー? 気は確かか、はるか北だぞっ!」
ビリーは食って掛かるが位置が俺様には分からん。
聞くしかない。
「そいつは遠いのかい?」
「リベットの方が近い」
そう答えるビリーだが、市長は手で制した。
「あの場所は非常用の溜め池でな、水道管もまだ生きている。と言っても一年前までだが。それまでは使ってたんだ、浄水場の調子が悪かったしな」
「どういうことだよ? 俺様にも分かるように言ってくれ。一年前までって?」
「一年前まではここにも届いていたんだ。問題は……」
「放射能か?」
「いやブッチそうじゃない。向こう側から供給がストップされたんだ。レイダーの集団があそこを拠点にしたんだ。今もいるかは知らんが、供給はストップされたままだ。今までは街の
浄水システムで何とかなってたから特に問題はなかったんだがな。今は、あそこに賭けるしかない」
「つまり」
「つまりだ、向こうに行ってバルブを開ける必要がある。汚染水ではなかった、一年前まではな。まあ、わざわざレイダーどもが汚染させる必要はないわけだから、今もまともな水だろう」
そこまで言って市長は肩を竦めた。
「今いる連中の頭がまともなら、だがな」
「なるほどな」
こういうことか。
その貯水池にいる連中が敵ならぶっ飛ばしてバルブを開けば水が供給できるってわけか。
ピストン輸送するより安心だろう。
「だがルーカス・シムズ」
「何だ、ビリー」
「遠いぞ、あそこは」
「とりあえず少数で攻めて落とす。敵なら、だが。話し合い出来るならそれに越したことはないが……あの辺りはまだレイダーの勢力圏が強いからな、まあ、敵か。BOSにベルチバードを
借りるかGNRにジェットヘリを借りるしかない。機動的に攻め落として、バルブを開き、それと並行する形で陸路で守備部隊を送り込む」
「守備部隊?」
「貯水池のだ。奪還されてバルブ閉められても困るし何かを混入されても困るからな。それで水の確保は終了だ。その間に浄水システムを直す。奇襲は航空組で、陸路組は守備の為の派遣だ」
空から電撃的に攻める。か。
すげぇぜ。
わくわくしてきたっ!
ベルチバードはエンクレイブから鹵獲した代物、ジェットヘリは前は奴隷商人が保有していたものらしい。ジェファーソン記念館の戦いの際に航空支援してたのは、そのヘリだ。
操縦者はスティッキー、現在はGNRで物語を語ってる。
何でヘリがGNRにあるかといえば操縦できるのがスティッキーだけだからだ。BOSも操縦できるんだろうが、スリードックがが強引にもぎ取った。
何故?
取材の為らしい、報道ヘリってわけだ。
BOSはその必要性を認めて、それを許可した。
しかし借りれるのかねぇ。
「ブッチ」
「何だい、市長」
「ヘリにしてもベルチバードにしても搭乗数は極少数だ。精鋭で行く必要がある。お前さん、手を貸してくれるか?」
「俺でいいのか?」
「銃を撃てる奴らはたくさんいる、しかし戦えるとなると限られてる。お前さんなら適任だ、助けてくれないか?」
「任せとけって。トンネルスネーク最強っ!」
「ははは。決まりだな。明朝出発だ。俺も同行……」
「あんたは市長だろうが。俺が行く。アッシュも連れて行く。あとは、もう1人2人か……まあ、適当に探すさ」
「分かった。頼んだぞ、ビリー・クリール」
「ああ」
空きは2人、か。
「なあビリー、俺様が推薦していいか?」
「構わんが、1人は、トロイか?」
「ああ」
「役に……」
「立つぜ」
今回はED-Eがいるからな。
能力は知らん。
能力は知らんが、トロイが言うには、スペック的にはそこらのロボよりも格段に強いらしい。そして何よりトロイにしか従わないと来たもんだ。
一心同体ってわけだ。
「で? もう1人は?」
「そうだな……」
「すまんが水をくれないか? 喉が渇いちまって……ああ、あんた時の坊主か。何だかんだで生きてるよ、今はな、あん時はありがとよ」
「よお、おっさん」
「誰がおっさんだ誰が」
ベンジャミン・モントゴメリーだっけか?
白いコンバットアーマーにアサルトライフル、腰には10oピストル、トレンチナイフ。
完全武装のおっさんだ。
「今何してるんだ?」
「ジャラジャラ目障りなキャップが尽きてな、喉渇いてるんだよ」
「診療所からいなくなったと思えば今はどうやって生きてるんだ?」
「適当にだ。特に目的もないしな。ぶらぶらして生きてる、今はな。目的を見いだせなかったら、まあ、その時はその時で考えるさ」
「おいおい物騒なこと考えてないか?」
「さてな」
「なあ、三食飯付き酒付きで力貸してくれないか?」
「……やれやれ。傭兵ってことか、まあ、仕方ないか」
おっさんはその場で敬礼。
様になってんな。
「ベンジャミン・モントゴメリー軍曹、死力を尽くしますっ! ……こんな感じでいいか? 早速だが、手付に何か食わしてくれ、酒もな」
「よしきたっ!」
メガトン周辺。
裏側の岩山。
ボルト101から這い出してきたボルト至上主義者たちは焚火をし、そこに野営していた。
丁度岩山に隠れているためメガトン側からは見えない。
指揮しているのはアラン・マック。
従がっているのはその息子のワリー、ボルトセキュリティ23名。
以前ボルト101を襲撃してきた虐殺将軍エリニースたちが持ち込んだ武装を鹵獲、今回の遠征では使用している。その為レイダーぐらいは簡単に撃退できるだけの戦力がある。
「親父」
「何だ」
「ミスティは今この辺りにはいないらしいけど、どうするんだ?」
「気長にやる。とりあえずはボルトの裏切り者ブッチ・デロリアの抹殺だ。構わんよな、ワリー?」
「もちろんだっ! だけど、全部終わった後は、どうやって戻るんだ?」
アマタが入れるとは思わない、そう示唆している。
事実アマタ入れるつもりはなかった。
アランは笑う。
「Mr.アンディ」
「ハイハイなんでしょう〜」
ボルトに昔からいるMr.ハンディ型のロボットは軽快に答える。このロボットはアランに賛意を示し、付いてきていた。
「あの話は本当なのか?」
「あの話、とは?」
「浄水チップの話だ」
「ええ、本当でございますよー。そろそろ使えなくなるそうです。真水の確保がボルトではできなくなりますねー。チップの交換が必要です」
「分かったか、ワリー?」
「つまり親父が浄水チップを……」
「どこにあるか分からんもんを探すつもりはない。探すのはアマタだ。俺は水を確保して戻る。アマタはボルトの現状を理解している、俺達を入れるさ」
「だけど、浄水チップなければ根本的な解決には……」
「二段構えの策があるんだよ、二段構えのな。それが終われば」
そこで一度アランは言葉を途切った。
顔には喜色。
「それが終われば、俺が新しい監督官になるだろう」